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 「日本の苔」という意味のフランス語の名前を持つモス・ローズ。

 原語の表記では「Mousseux du Japon(Muscosa Japonica)」となっているが、日本語のラベルでは「ムスー・デュ・ジャポン」「ムソー・デュ・ジャポン」「ムソー・ド・ヤーポン」「ムソー・ド・ヤポン」などとなっている。1899以前に知られていたという。

 作出者や作出年など、この薔薇の由来は一切わかっていないという不思議な薔薇である。モス・ローズであることは、その姿を見ると誰でもわかる。ふつうのモス・ローズは、莟が苔が生えたようになるのだが、この薔薇の場合は、莟だけでなく、茎までびっしりと苔が付いたようになる。まるでアブラムシに被われているかのようだ。私もこの薔薇を初めて見たときは、アブラムシにやられているのだと思って近づいたのだが、よく見ると、「苔が生えている」ことがわかったのだった。このような薔薇はほかにはまったくなく、ラベルが付けられてなくても、一目でわかってしまう。

 山梨県フラワーセンター・ハイジの村やガーデンミュージアム比叡ではラベルが付けられていないが、見まちがうことはまずないのである。ハイジの村では通常の薔薇の展示スペースではなく、バックヤードのような敷地の外れに近いところに植えられていた。一通りの撮影を終えて園内をぶらぶら歩いているときに偶然見つけたのだった。かなりの株数が植えられていて、驚くとともに、この薔薇を秘かに楽しんでいるスタッフがいるにちがいないことが確信されて、嬉しくなったことを覚えている。願わくばバックヤードに埋もれさせず、回廊の脇にでも植えていただきたかった。

 この薔薇になぜ「日本の苔」という意味の名前が付けられたのか、由来はわからないのだが、雨が多く寺社の庭がいつも緑の苔に被われている日本の湿潤な風景を見た、あるいは想像したフランス人が、この薔薇にその名前を付けたのではないかと想像する。

 私はこの薔薇が好きである。この薔薇が好きか嫌いかは、モス・ローズが好きか嫌いか、ということにも通じると思うのだが、残念ながら、現在ではモス・ローズはあまり積極的に植えられているとは思えない。モダンローズ(ハイブリッド・ティー)やイングリッシュローズ全盛の時代である。原色ではない中間色の優しい色合いや芳醇な香りが好まれるようだ。しかし、モス・ローズの、あのやや不気味さも併せ持つ莟の逞しさやくっきりとした赤紫色の花が私には合っていると思うのである。

 この薔薇を私が見たのは、前述の山梨県フラワーセンター・ハイジの村、ガーデンミュージアム比叡のほか、京成バラ園、佐倉草ぶえの丘バラ園、ひらかたパークバラ園、敷島公園バラ園(群馬県)の合計6ヵ所だけである。花フェスタ記念公園でも見たことがないのは意外だった。花フェスタ記念公園は7,000品種の薔薇があるということでおそらく全国最多の品種数を誇るバラ園だと思うのだが、ムスー・デュ・ジャポンに心が引っ掛かったスタッフがいなかった、ということなのだろう。