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 江戸彼岸桜の変異種。枝が長く垂れ下がる。

 枝垂桜は、桜のなかでは非常に人気がある。垂れ下がった枝いっぱいに花が咲いて、それが風に吹かれてゆらゆらしている姿はどこまでも優美で美しい。日本で見られる桜は、数では染井吉野がもっとも多くて80%にもなるというが、枝垂桜はまたちがった趣きがあって、それを愛でる人も多い。

 「枝垂桜」は一応品種名となっているが、もうすこし詳しく見ると、いくつかに分けられるようだ。一重か八重か、花弁の色が濃いか薄いか。もともとは江戸彼岸なので、一重の花の場合、さほどの変化はない。ややピンク色が薄くて、ときには白色に見えることもある。老木の花は色が薄いといわれることもあるが、はっきりそうといえるほど私には調べきれていない。一重でも花弁の色がやや濃くて「紅枝垂」といわれるものもある。八重になると、花色が濃いものはよく目立つ。

 この桜は平安時代にはすでに知られていて、遠く東北地方にも植えられていたのを逆に京都に持ってきたという話も伝わる。実際、東北地方には枝垂桜が多く、とくに福島県に集中しているようにも思える。有名な三春の滝桜は樹齢800年にもなるそうだが、800年前というと鎌倉時代である。そのころに芽生えた、あるいは植えられた桜が今までずっと花を咲かせてきたのだが、そこには人間の手がずいぶんかけられてきたと思われる。桜の名木、巨木は、人里に近いところに多く残されているが、それは人間とのかかわりが緊密なものだったことを物語っている。たんに毎年花が咲いて綺麗だというだけでなく、人間がその木の世話をつづけてきたということである。

 もうかなり前のことになるが、三春の滝桜を見に行ったとき、周辺の桜を当てもなく訪ねたことがあった。現地では桜マップが用意されていて、近くの主な桜をまとめて鑑賞することができる。そこに載っていない桜もたくさんあって、京都や大阪に持ってきたら立派な一本桜として人が集まるにちがいないというようなものがいくつもあった。また、枝垂桜ではないが、大山桜もごくふつうにそこらじゅうに咲いていて、私の目を楽しませてくれた。

 福島県とともに長野県も枝垂桜の多いところである。いちばん南の地域である天龍川沿いの飯田市周辺でも枝垂桜はたくさん見られるし、いわゆる安曇野に行くと、山すそをつなぐようにして枝垂桜が咲いている。多くは墓地に植えられている。山すその集落ごとに墓地があって、そこに枝垂桜や江戸彼岸が植えられているところが多いのである。みんなかなりの巨木になっている。当然集落の人々がずっと世話をしてきたのである。桜の写真を撮りにそのようなところまで行くと、カメラのシャッターを覗いたときにどうしても墓碑が写りこむことがあって、シャッターを押すのがためらわれてその場を離れたこともある。桜そのものは美しいのだが、その美しさは人間の営みによって維持されていると思うと、やや複雑な気持ちになるのだった。

 京都府立植物園にも枝垂桜の大きな木が一本ある。花菖蒲の池の向こう側にゆったりと笠を広げたような優美な姿を見せている。この枝垂桜は一重で、花色はやや薄い。開花時には木全体が花に埋もれてしまってみごとである。桜の手前が花菖蒲の池になっているので、花の下まで人が近づくことはできない。そのため、みんながすこし離れたところからその綺麗な姿を眺めたり写真に収めたりできるようになっている。

 枝垂桜でなくても、枝先が重くなったのか、地面の近くまで枝が垂れ下がっている桜はある。池の岸辺に植えられている染井吉野にもよく見られる光景だ。しかし、枝垂桜の枝はたんに重みで垂れ下がっているのではなく、下に向かって自然に伸びているように見える。ただ、この桜の幹はある程度の高さまではまっすぐ空に向かって立っているのであるから、どこから下に向かって伸びる性質を持つようになるのか、ふしぎだ。

 山桜のなかにも枝垂れる性質が強いものもあり、「山桜枝垂れ」とよばれている。「雨情枝垂」「枝垂豆桜」などという品種もある。