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   吉野山の桜(2005/04/15)

 久しぶりに吉野山の桜を見に行った。

 花の時期の吉野山はひどい混雑なので、ここ数年は敬遠していたのだが、久しぶりに満開の花を楽しむことができた。

 今年の吉野山は、下の千本が開花したかと思うとまもなく中の千本、そして上の千本も開花し、全山がほぼ同時期に満開となった。上の千本が満開のころには下の千本はもう散り果てということが珍しくないのに、今年にかぎっては下の千本も枝先に花がしっかりと残っていたのだった。

 夜には慎ましやかなライトアップもあって、都会のそれとは比ぶべくもない規模だったが、かえってそれが風情を醸し出していた。

 人出は最高潮だったが、金曜日の昼ころに到着し土曜日の朝10時ころにはもう吉野から逃れるように山を下りてきたので、混雑にはほとんど巻き込まれなかった。吉野に逃れる、とは古来の表現だが、図らずも吉野から逃れることになってしまった。

 吉野山に咲く桜は、シロヤマザクラといわれているが、いわゆる「山桜」の種類である。山桜というのは、よく見ると、樹によってそれぞれ個性があるようで、花の色も葉の出具合も、みんなそれぞれ微妙にちがっている。満開の吉野山の遊歩道を歩いていると、自分がにわかに昔の人になった錯覚を覚えるのだった。西行法師が隠棲したころ、すでにこのような賑やかさで花が咲いていたのかどうかはわからないが、奥千本へとつづく急峻な坂径のあちこちで、溜め息まじりに息を整えている老若男女を見ると、花も人もけっきょくのところ変わらない存在なのかもしれないとあらためて思ったことだった。