「ムスー・デュ・ジャポン」とは、「日本の苔のバラ」という意味である。
ヨーロッパでは、このモス・ローズの人気が非常に高いと聞く。開花する前の蕾や茎がびっしりと苔むしたようになる。なかでも、このムスー・デュ・ジャポンは、アブラムシにとりつかれたのではないかと錯覚するほど、びっしりと苔に覆われたようになっている。梅雨の時期の、樹肌がびっしりと苔に覆われたようになってしまう、そんな感覚をうまく品種名として定めたものだと思う。作出者も作出年も定かではなくて、ただ「日本の苔」という品種名だけが伝えられているバラである。
このバラは、日本ではあまり知られていなくて、植栽されているところが非常に少ない。私がこのバラの写真を撮影できたのは、佐倉草ぶえの丘バラ園、京成バラ園、山梨県フラワーセンターの3箇所のみである。
どこのバラ園でも、残念ながら、満足な解説などは一切なく、ある程度バラのことを知っている人に見てもらえればそれでよいとしているようなところがある。山梨県フラワーセンターでは、通常バラを展示しているところにはなくて、敷地の端っこにぽつんと植えられていた。
しかし、このバラは一目でそれとわかってしまうほど特徴的である。「日本の苔」という名前がどうしてつけられたのか、その由来が一切伝わっていないらしい。日本は苔の綺麗な国だから……という連想から名前がつけられたのかもしれないが、薔薇好きな日本人にとっては、モスローズはそれほど印象に残る薔薇ではなかったのだろう。積極的に植えているバラ園がないのは残念である。